中国広東省深圳市の電気街「華強北(ホアチャンベイ)」で、外国人観光客が人工知能(AI)を搭載した眼鏡型端末「AIグラス」を手に取る光景が広がっています。2026年1〜7月のAI製品の売上高は前年同期から55%以上伸び、そのうちAIグラスの販売は倍増しました。新華社が10月23日に伝えたもので、旅先での買い物が新しいハイテク製品の入り口になりつつあります。
電気街で起きた「眼鏡の試着ラッシュ」
華強北は「中国電子第一街」とも呼ばれる、中国最大級の電気街です。11万5000を超える事業体と35の専門市場が集まり、扱う電子部品や民生用の電子機器は100万種類以上。秋葉原を何倍にも膨らませたような場所、と想像すると近いかもしれません。
その中心街では、外国人観光客の姿が連日途切れないといいます。今回の話題の主役は、スマートフォンでも家電でもなく、眼鏡の形をした端末でした。
数字を並べてみます。1〜7月のAI製品の売上高は前年同期比で55%以上の増加。うちAIグラスの販売は2倍になりました。ここで押さえておきたいのは、これが華強北という一つの商業エリアでの実績だという点です。世界市場全体の話ではありません。それでも、観光客が自分の目で見て、掛けて、買う場所でこれだけ動いている事実は小さくありません。
翻訳と撮影を一つの眼鏡に
南アフリカから訪れたハッティンさんは、AIグラスを次々と試着していました。「会話しながら動画を撮影できるし、翻訳された音声も直接耳に届く」と、その性能を高く評価しています。
注目したいのは、機能の選び方です。AIグラスと聞くと難しそうですが、評価の中心は「しゃべりながら撮れる」「相手の言葉が耳元で訳される」という、旅行者が今日から使える場面にあります。スマホを取り出して画面を見せ合う手間がなくなる、というのは想像しやすい利点でしょう。
深圳の新興企業、深圳李未可科技が発売したAIグラスは、128言語の同時翻訳に対応するとされています。一部の少数言語では翻訳精度が98%以上に達し、海外との協力や貿易の商談といった場面でも役立つと紹介されています。
もっとも、98%という数字はあくまで一部の少数言語に限った話です。全言語で同じ水準が出るという意味ではありません。観光での買い物と、ビジネスの商談。同じ翻訳機能でも使い道が二つあることが、関心の広がりにつながっているように見えます。
売り場の熱気を支える深圳の産業集積
深圳がAIグラスの世界的な集積地になった背景には、産業チェーンが一通りそろっているという強みがあります。同市は眼鏡産業で40年以上の蓄積があり、AIグラスでもブランド、光学、ディスプレイといった中核分野の川上・川下企業が相次いで生まれています。
眼鏡づくりの老舗の土壌に、AIという新しい中身が載ってきた格好です。
南山・宝安・竜崗、区ごとに違う役割
産業チェーンは南山、宝安、竜崗などの各区にまたがっています。竜崗区は眼鏡の年間生産量が1億2500万本を超える生産拠点。南山区にはAI企業が集まり、騰訊控股(テンセント)や雷鳥創新技術などが拠点を構えています。
宝安区は音響やディスプレイに強い産業基盤を持ち、立訊精密工業(ラックスシェア)や鵬鼎控股といったサプライヤーが立地しています。眼鏡の製造、AIの頭脳、音と映像の部品。AIグラスに必要な要素が、同じ都市の中に分担して並んでいるわけです。
ここで挙がる企業は各区の産業基盤を示す例であり、特定の企業が個々の製品を造っているという意味ではありません。それでも、企画から部品の調達、形にするまでの距離が近い土地柄が、売り場の品ぞろえの厚みにつながっていると考えられます。
旅行者の購買が示す次の接点
AIはこれまで、画面の中で使うものでした。チャットに質問し、画像を作らせる。それが眼鏡という身に着ける道具に移ると、使う場面は一気に日常へ近づきます。
旅先の売り場で試せて、翻訳のように用途を想像しやすい機能がある。この組み合わせは、購入のきっかけとして効きやすいのではないでしょうか。カタログのスペック表を読むより、掛けた瞬間に相手の言葉が耳に届くほうが、納得感は桁違いです。
海外のSNSでは、多くのユーザーが深圳を「世界で最も未来感あふれる都市の一つ」と見ているそうです。今年に入って深圳の通関地(口岸)から出入境した外国人は、延べ500万人を超えました。この人の流れが、華強北の売り場に新しい製品を試す機会を運んでいます。
日本でも、旅行先で買ったガジェットが帰国後に口コミで広がる例は珍しくありません。AIグラスが「お土産にもなる翻訳機」として世界に散らばっていくなら、次に話題になる場所は、案外身近な電気店の棚かもしれません。


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